有機野菜や有機栽培、オーガニックを取り巻く課題

色とりどりのかぼちゃ

無添加・オーガニックの食材については、市場における沿革や成長度合いなどから、ほぼ需要を満たし一巡したとの観測があります。そんないまだからこそ、これらの食材について改めて目を向けるべき点があるはず。ミクロ・マクロの視点からの提言します!

有機野菜などオーガニックフードを取り巻く人々の意識

掌に一輪の花

オーガニック野菜や肉、飲料など、健康食品ブームが到来してからの日本は、ここに来てようやく消費者の意識が落着き、無添加食品やオーガニック食材を選ぶ人と、とくに気にしていない人、選ばない人の区分けがはっきりしてきたような気がします。

無添加・オーガニックが良いと叫ばれ始めたのは30年以上も前のこと。それを前後して栄養補助食品、いわゆるサプリメントが登場し、世の中は健康一色に染まっていったのではなかったかと思います。

多くの人がある現象や動向を支持して熱くなっているときは、反対側からの意見や見方は悪者のように思われてしまうので社会には届きにくい。けれども消費者の意識が落着いたいまなら、いろいろな側面を冷静に受け止められそうです。

そこでこのサイトでは、無添加・オーガニックの食材について取り上げ、日本のオーガニック市場の現状や未来、消費者であるみなさんの意識や傾向。ネット社会における情報の扱い方など、いくつかの視点を織り交ぜて語ってみたいと思います。

有機栽培などオーガニックを手がける農家の増加と問題

オレンジ畑

農林水産省の少し古いデータではあるけれども、農業全体に占める日本の有機農業の農家数は1万2000戸に達していて、割合としては全農家数の0.5%。割合だけをみればわずかなようでも、有機農業をはじめる農家は年々増えて平成18年~22年までのあいだに35%の増加率を記録しているとまとめています。

その一方で有機JASを取得している農家と取得していない農家をくらべると、取得していない農家が多くなっていることを認めています。これは言ってしまえば有機農業を各農家独自の方法で行なっていて、農水省には管理監督するモノサシがないということ。

実際に有機野菜とか有機栽培というと農薬を一切使っていないように思っている消費者も多くいますが、農水省は農薬の使用を全面的に禁止しているわけではありません。どの農薬をどの程度使うかは、個々の農家の裁量に任されています。

また最近では、民間のある団体が「オーガニック白書」というものを出版。2017+2016 の近未来予測までを付記しています。食品全体から俯かんすれば、オーガニックの食品市場は極小~、「それでも、日本のオーガニック市場は伸びている」と結論しています。

日本のオーガニック市場の伸びと課題

  • 市場は拡大傾向とはいえ、耕地面積や比率からするとごくわずか。
  • 農水省からすると有機JASを取得している農家は少数に留まっている。
  • ほとんどの農家が独自の農法で有機野菜・有機栽培を行なっている。
  • 農薬の使用を全面禁止しているわけではないので心配は残る。

消費者意識とオーガニックフード・オーガニックライフ

オーガニックの人参とほうれん草

先にお話しした有機JASというのは、農林水産省の認定機関が認可した第三者機関によって認定されたもの。有機JAS表示の農産物や関連加工商品は増えているものの、認知度は低く、まだこの名称について初耳とする消費者も多いことでしょう。

さてそこで1つ視点を変えて、「消費者意識とオーガニックライフ」について考えてみたいと思います。日本では有機農法やオーガニックフードにおいて先進国だという見方があります。

しかしその一方では、「オーストラリア・ドイツなどの先進国にくらべれば、まだまだ後進国。国民の意識が低く、ライフスタイルとの一体化がなされていない」と、厳しい見方をする専門家もいます。

ある調査では、日本人は年齢に関係なく、「フェアトレード」などの社会的キーワードに強い関心を寄せる一方で、実際にそれを購入する人はごく一部。さらにそれを継続して暮らしの中のファッションや食事に取り入れる人は、ごくわずかであることが浮き彫りになったとの結果が発表されています。

単なるトレンドだけで購入したり使ったりしているうちは、社会的キーワードといえども、自分をアピールするための道具にしかなっていない気がします。オーガニック食材は自分の健康やダイエットと直結しているので取り入れ方も少し違うようですが、それでもなおトレンドに流される人が多い日本では、市場縮小の危うさがあることを否定できません。

消費者の本気度が高いレベルにあって、定着があって、人に伝わって需要が膨らんで...。そのような循環が継続されなければ、オーガニック先進国としての地位は獲得できそうにありません。割高に思えるオーガニックフードや有機野菜よりも、価格重視で安いものを選んでしまう日常の生活...。

その一部を振り向けて習慣化するまで、あと一歩のところまで来ているのに残念なことです。

あの頃のオーガニック食材は、確かに扱いが面倒だった

植物のアップ

オーガニックといってもジャンルはさまざまで裾野も広い。食材以外のものは傷んだり腐ったりするわけではないので気軽に接することもできるけれど、食材となればそうはいきません。

畑からの穫れたて感覚をアピールするためなのか、土のついたままのジャガイモや根菜類、へこみのあるフルーツ、大きさや形が不揃いのキュウリなどは、もう少しなんとかしてくれないかと思ってしまう主婦も多いと思う。

昔の有機野菜や栽培を知っている人は、行き過ぎとも思えるナチュラルフード店の品物や接客スタイルを知っているから、中にはそれを契機にしてオーガニック食材を敬遠するようになった人もたくさんいたのではと思います。

過熱気味だった時代の有機派・ショップ意識

  • 野菜や果物にキズが付くのは有機だから当たり前。
  • 虫食いがあるのは、その農作物が新鮮でおいしい証拠。
  • 畑の土を嫌うなんてナンセンス。もっと農家に感謝が必要だ。
  • 保存料は使っていないので、早く食べるのはナチュラリストの常識。
  • 香料は使っていない。フルーツの香りが薄くてもそれが自然だと受け取るべき。
  • 農薬づけで工業化された野菜など、毒を食べているようなものだ。
  • 有機で育てないと子どもの健康が危ない!
  • 子どもに畑の存在を教え身近に感じさせるのは親の努め。
  • 工業化・大量生産の食品ではないので、高くて不揃いでも我慢すべきだ。

オーガニック食材が認知され躍進に次ぐ躍進をつづけてきたころは、ほんとうに上記のようなナチュラリストやショップが蔓延していて、興味があってもお店に入るのに恐怖を感じてしまうこともありました。菓子メーカーやパンメーカーに使われている原材料が悪いと、名指しで書き連ねたムック本も出版されブームになりました。

しかしこれらは何年も昔の話。行き過ぎた消費者意識はいつのまにか穏やかなものになり、上から目線で接客していた自然食品店やオーガニックフード店といった存在もなくなりました。過剰推進派の消費者がおとなしくなれば、セールスプロモーションも穏やかになり、反対側にいた人たちからの理解も得やすくなるものです。

オーガニックライフが定着しない現状と今後

  • 日本ではオーガニックへの意識がドイツやオーストラリアほど先進的でない。
  • 日本人は社会的意義に関心は高いが、トレンドや自己表現の手段で終わっている。
  • 有機加工物も食材も、このままいけば市場はシュリンクする。
  • 暮らしの中のほんの一部でもいいから、有機製品を取り入れる習慣を。
  • 有機野菜・農作物に対する古い認識から新しい認識への切り替えを。

有機野菜・有機栽培など、正しい情報をどう選択するか

赤と青の扉の前に立つ女性

日本の消費者は品質や安全性・精度について世界一厳しい目をもっていると言われてきました。それは現在でも変わらないはずです。しかし厳しい目ということと情報の捉え方はまったくの別もの。認識・知識が正しくなければ、厳しいことが裏目になってあらぬ方向へ暴走することもあり得ます。

たとえばほうれん草には鉄分が豊富に含まれていて、血液を増やすのに効果的な食物とされてきました。そのため、貧血気味の女性や冷え性で悩む女性は、こぞってほうれん草を摂取してきました。有機農法によるほうれん草や葉物野菜を購入し、有効なレシピ通りに調理してきたはずです。

ところが数年前に農林水産省の外郭団体が、栄養価の表記改訂を目的にほうれん草の鉄分含有量を調べた結果、鉄分含有量は極めて少ない量であることが判明したのです。その原因はほうれん草自体にあるのではなく、調理器具の変遷・変化にあったのです。

昔は鉄製のフライパンであったために、それで炒めたり煮出したりした食材には自然と鉄分がプラスされていましたが、いまでは鉄製でないフライパンが大半を占めるため、ほうれん草や他の食材についても、鉄分含有量が減っているというのです。

同じようなことが他にもたくさんあります。食物や飲料の摂取において、“昔はNGだったのにいまではOK”で、むしろ積極的に摂るようにとの指導が医師や管理栄養士から出されています。肉やコーヒーなどもそうです。

ネット社会のオーガニック情報はどこまでホンモノか?

駅のホームでスマホを眺める人たち

現代はインターネットや通販がなければ成り立たない世の中になりましたが、自分の中にある情報をリセットするにしてもアップデートするにしても、ネット上にある口コミや人気ランキングをどこまで信用して良いのかという問題です。

SNSでサービスを受け慣れている人は、それほど受けていない人と比較して、情報被害にあう確率が高いという調査結果があります。また口コミやランキングを信じやすく、被害にあっていることさえ認識していない傾向が強いとの結果も出ています。

つまりSNSを頻繁に使っている人は、過去の苦い体験などを教訓に、情報の真偽を見極める力を身につけているとも読み取れます。その逆に、SNS慣れしていない人は、ネット上にあるすべての情報を作為的なものとは見なさず、すべてが自分にとって有益と受け取ってしまう傾向にあることを表しています。

「このオーガニックフードは絶対だ」と信じて定期購入している人は、ネットワークサービスを受け慣れた人でしょうか。過去の失敗や教訓が生かされているでしょうか。オーガニックフードだから安心で当たり前という前提で接していては、口コミやランキングのオモウツボになっている可能性もあります。

オーガニック情報の受け取り方・扱い

  • 時代による消費者の意識変化と、研究による効果・効用の変化は、同じオーガニック情報でも立て分けて取り入れるべき。
  • 「獲れたて有機野菜で大評判!」などの表現があってもネット上にある口コミや人気ランキングをうのみにしてはならない。
  • SNSをあまり利用していない人は、頻繁に利用している人とくらべて騙されやすい。無条件に信用すべきではない。

有機野菜・有機栽培記事に“表現されていない情報”

野菜や果物の籠を持った女性

先にお話しした調査は国内のあるカード会社が実施したもので、ここ数年増えつづけているカード犯罪のセキュリティ強化を目的に実施されました。情報には、白か黒かという二分ではなく、“ウソは言っていない・表現していない”、だから詐欺には当たらないというグレーの情報もあります。

オーガニック関連で言えば、『獲れたて有機農法で新鮮・安全!』、『人気ランキング、お客様満足度NO1をめざす!』などです。朝穫れとは言っていないし無農薬とも表現していない、お客様満足度を“めざす”と言ってはいても、ナンバーワンとは言っていません。このような会社はネット上にもたくさんあります。

表現していることの信ぴょう性よりも、表現していないことを探し出すことのほうが大事だったりします。オーガニック野菜にも農薬が使われている事実を、すべてのナチュラリストたちは知っているのでしょうか。とくにオーガニック食材などは、直接口に入れてしまうもの。言葉や表現のマジックに騙されず、どこまでがホンモノでニセモノなのか、自分でできる範囲でもいいので、裏取りをしっかり行なっていきましょう。

有機栽培だからこそ厳しく細かなチェックが必要

  • 有機栽培を生業としている農家や支持組織に、ときには“日常ではあまり表現されていない事柄”を聞き出してみる消費者の姿勢が大事。
  • オーガニック食材などは、直接口に入れてしまうもの。言葉や表現のマジックに注意して、できる範囲で裏取りをすべき。

人よりペット!無添加ドッグフード・キャットフードの活況

グラスの縁に手を掛ける猫と犬のおもちゃ

いまや無添加であることは当たり前にもなりましたが、人間だけではなく、無添加ドッグフードやキャットフードの商品も驚くほどバラエティ豊かです。人間に対するオーガニックフード関連の市場より、無添加ドッグフードやキャットフードの市場のほうが成長率は高いとの見方さえあります。

意識さえすれば、健康はお金で買える時代になりました。しかし、そこまでこだわらなければ日本の食材は危険なものなのでしょうか。オーガニック食材・食品のメリットは、安全で栄養価などの管理がしやすいこと。しかしデメリットとしてあるのは何と言っても価格が高いこと。

飲料を含む食生活のすべてをオーガニック系で完結させようとすると1人あたり10万円・20万円という食費がかかる可能性があります。普通の食材をスーパーやコンビニで買っていたら、病気になってしまうのでしょうか。

オーガニックや健康食品は素晴らしい世界ではあっても、それだけに終始するのではなく、バランスのとれた視点と考え方が一方では必要なのではないかと思います。自分なりの価値観と情報選別のあり方を大事にしましょう。